010:トランキライザー-----絶対手放せない。だって必要不可欠だもの。



まずはお酒に走ってみる。
飲んで飲んで飲まれて飲んで(あれ?違う?)
べろんべろんに酔っ払って挙句待っているのはどうしようもない悪心と吐き気だ。



次にいつもやったことがないこと、この場合には煙草に走ってみた。
吸う前は結構どきどきした。私の中でやっちゃいけないことだったから。
…吸って後悔した。
それはそれはもう激しく咳き込んでこのまま死ぬんじゃないかと思ったほどだ。
喉はいがらっぽいし、肺は汚れに汚れきった気がしてならない。間接喫煙なら数え切れないほどしてるのに。





次に何に走ろうか。






「…もう違う男に走っちゃおうかなぁ…」
口に出してそう呟くと、その言葉は妙にリアルな形を持って感じられた。瞬時にそんなのいやだ、と口の中で呟く。




…でもほっとくあいつが悪いんだし。
こんなにアピールしてるのに、構ってくれないなんてひど過ぎる。
今私が求めてるのは何でもいい。誰でもいい。



他人の体温だ。




「…もういいや」




別の人に走っちゃえ。あいつなんかどうでもいいや。




紙くずでも投げ捨てるように、心の中であいつを投げ捨てた。それから携帯を拾い上げて、友達に連絡を取る。



「もしもしー?あ、久々ー。あのさぁ、」




合コンの話、ない?と言いかけて、携帯が耳元から取り上げられた。
「何すんのよ」
けれどもこいつは携帯を返すことはせず、いきなり話をし始めた。
「あ、もしもし?こいつの友達?おれこいつの彼氏なんだけど、しばらく合コンは持ってこなくていいから。…うん、そう。ごめんねー、それじゃ」
…普通に切りやがった…。
私が恨みを込めてにらんでいると、通話を終えた彼氏は、私の頭をぺしんとたたいた。
「…なぁにやってんだ、お前は」
「だってぇ」
「だってじゃねぇの」
それから、私が寝転がったベッドの端に、どさりと座り込む。
「…相手してくれなかったじゃん」
わざと拗ねた口調でそういうと、少し罰が悪そうに、彼はいう。
「そりゃ、ほうっておいたのは、悪かったと思ってるけどさ、」
でも合コンに走ることはねぇだろ、と言われ、私も少しばつが悪くなる。
彼氏は私の背中に乗っかってきた。重たさに文句を言おうとすると、先に口を開かれる。
「お前は、俺の、安定剤なの。


今ここで離れられたら俺どうなるかわかんないよ?」



少し照れたような声音。顔が見たかったけど、彼は頑として私の背中からどかない。
しょうがないから、うつ伏せたまま言ってやった。



「…私もアンタが安定剤よ。だから欠けて苦しいんじゃないの」



背中の上で彼は唸った。それを聞いて私は満足して、思わず笑いが漏れてしまう。


「…なぁに笑ってんだ」


すると、顔のほうまで転がってきた彼にいつもどおりのキスをされた。




二人で一つのトランキライザー。



互いにしか作用しない。もう立派なジャンキーね。

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これって健康的?それとも不健康の部類に入るの?とりあえず部屋に篭るからやっぱり不健康なのかしら?


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