012:ガードレール-----------------あの先のガードレール。そこを通り過ぎたら。
走る。自転車を力強くこぐ。
坂道は気が抜けない。少しでも力を抜いたらあっという間に後退しそうになるからだ。
どんどん高台に上っていく。うねる道は先の視界を奪う。
もう少し、あと少し、擦った後がある錆びたガードレールを通り過ぎて、あのきついカーブの先を曲がったら。
そしたら、大きな大きな海が見えるよ。
今日はあいにくの曇り空。青い空に青い海、綺麗に曲がる水平線は拝めそうに無いが。
君の島は、きっと見える。
君はこの島を出て行った。僕はそれを見送った。
この島を出て君についていくことが、君のためにはならないと知っていたから。
君は分かってくれた。ただ僕にひとつのことを約束した。
「あたしにはきっと聞こえるから、だからあの島に向かってあたしの名前を呼んでね。
毎日なんていわないけど、あんたがあたしを忘れない限り、あたしの名前を叫んでね」
だから僕は出来るだけ毎日君の島に向かって呼びかける。
『僕はまだ君を忘れてはいないよ』と…。
それから一輪、来るごとに違う花を海に投げ込むんだ。
君は逝ってしまった。ガードレールの先にある丘から見えるあの島に、君は眠っている。
安らかな顔に、安堵の涙が出たのはいつだったろう。もうあの頃から僕はだいぶ大きくなってしまったけど。
大きく息を吸って、声の限りに君の名を呼ぶ。
まだ、君を忘れてはいないよ。
いつかの思い出の場所から、今日も僕は叫ぶから。
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花冠を作ったあの日のこの場所で、僕はいつでも君を想うよ。