016:シャム双生児(腰が接合した二重胎児)-----------離れない。離せない。離れたい?もう、望みなんかとうにない。
個室。
トイレの。
ノックの音。
あたしはぶっきらぼうに「ハイッテマス」
外からは苛立ちをにじませた声で、「篭城してんな、でてこい」なんてご命令。
「あら、レディを急かすなんて、最低ネー」
「ふざけんな。三時間も篭っておいて何が急かすだ。早く出てこないとマジでドア蹴破るぞ」
警告は本気のしるし。あたしはゆっくりと立ち上がって、思いっきりドアを開けた。外に開くタイプだと知っていて。
「…あら、ゴメンナサイネー。いるなんて、思わなくって」
顔面を押さえてうずくまっている人に、白々しくそう謝る。
次の瞬間、引き倒される。
眼はつぶった。失明だけはゴメンなの。
気づいたら、頬は氷嚢で冷やされていた。
視界はクリアだ。今回も失明は免れたみたい。
唇が引きつる。腫れてるようだけど、今日はまだいいほうかな。
口の中は少し血の味がした。
頬を氷嚢で押さえたまま、狭いリビングへ。うずくまってる人の背中。
「…起きたよ」
こっちを向かない。
「…お前が悪いんだ」
「わがまま言って、トイレなんかに閉じこもって、わがまま言って」
言ってること、おんなじだよ。
唇が痛いから言わなかった。
「……俺も、悪かった。ごめん」
その言葉が嬉しくて、すぐにあたしはその背中に飛びつく。
「あたしも、ごめんなさい」
後ろから、その頬にキスを。彼の鼻は、赤くて、ちょっと切れてしまっていた。
「男前になった」
「お前も、美人になったよ」
ふふふ、と笑いながら、抱きかかえられて、見詰め合う。
「愛してるわ」
「俺も愛してる」
くっついた傷口がまた開くほどのキス。
こういう優しさがたまんないから、あたしは離れられないの。
ドメスティック・バイオレンス?違う違う。
これがあなたからあたしへの、あたしからあなたへの愛の証。
腰から下はくっついたまんま、そうやってころされてくのもいいんじゃないかって。あたしはそう思うんだけど。
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どうせ治る頃にはまた同じことを。