021:はさみ------------------------赤い糸なんて切れちまえ。
悪意ある言葉を呟いた。また涙が出てきた。
「『運命を感じたんだ』って何よ。馬鹿じゃないの!?」
ちょっと前に飲み屋でそういった緩んだ顔の男を思い出す。
『一番の友人』であるわたしに結婚の報告をありがたいことに真っ先にしてくれた。
大学で出会って、一目で恋に落ちて、なりふり構わずいったらなんとOK。そのまま恋人として過ごし、大学卒業して三年後になった今、プロポーズ。断られるわけなくそのままトントンと話は進み、双方の両親も快諾、幸せなハッピーエンド(そしてスタート)が待ってるんだって。
ふざけんじゃない。
声にならない声で呟いて、手に持った缶ビールをきつく握る。
「…一番の友達、なんて、そんなものが欲しかったんじゃない…」
『一番大切な人』になりたかったのに。
ずっとそばにいたのに。話だってずっと聞いてたのに。ずっとずっと、そうしてたらいつか一番になれると思っていたのに。
運命論なんて馬鹿げたことは信じない。でも彼らの出会いはまるで運命みたいに必然的で、きっともう離れない。
けど、もしも今この手にその糸を切れるはさみがあったら真っ先に断ち切ってしまうだろう。
彼につながってない赤い糸なんていらない。彼につながってる赤い糸なんて切れてしまえばいい。
報告されて、わたしはこう言った。
『やっとか!おめでとう!!赤い糸で結ばれてたんだろうね』
でれでれした顔に、そう言ってやった。
言ってやることで、決別したつもりだった。
「できるわけないに決まってるでしょ…っ!!」
頬を伝う涙は止め処ない。本当はこんなことは望んでない。
だけど、今だけ、本当のそのときにはきっと心から祝えるって思うから、今だけは呟きたい。
「…赤い糸なんて、切れちゃえ…!」
あたしだけがつながってた赤い糸。向こうの指には絡まるだけで、もうほどけてしまった。
先がない赤い糸は、あたしに絡まってだらりと垂れ下がるばかり。
その日見た夢は、自分に絡まった赤い糸を、大きなはさみで泣きながら断ち切ってる夢だった。
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寝覚めはすっきり。後は幸せを祈ろう。
2004/09/30