023:パステルエナメル(象牙色)-------------ただ、キャンバスを塗りつぶして行く。



真っ白なキャンバスを用意した。


そこに描く。ただ一瞬の風景を。



ただ一瞬の残像を。




丹念に丹念に書き込んで、時間をかけて、何回も何回も試行錯誤を繰り返して。




そして。



出来上がった絵。



青空。背中を向けたあなた。



見せられるわけが、なかった。



チューブ一本使い果たすほど、大量に絵の具を出した。パステルエナメル。白じゃない。

視界がにじんだ。初めて涙がこぼれた。筆に絵の具を取る。



ゆっくりと、塗りつぶして、塗りこめて、泣きながら、埋めていく。



白は使わない。白は忘れたことになってしまうから。



わたしはきっと忘れない。忘れられない。あなたがいたことを忘れることなんてできやしない。




だから、白では塗りつぶさない。



少しくすんだキャンバス。泣き腫らした目で、それを見つめた。
もう下に絵があったなんて思えない。それほど厚く塗りこまれて。



しばらく日がたてば、完全に表面が乾くだろう。そうしたら、この上に新しい絵を描こう。



だから、それまで。


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涙はこの向こう側に塗りこめた。





2005/05/06


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