朝からモズは不機嫌だった。


「どうしてあたしのプリンがないのよぉっ!!!」


子供特有の高い声を聞いて、ニエはちょっと頭がくらっとした。




あ な た の た め に  に な っ て 。





癇癪を起こす寸前のモズのところに、とりあえずニエは近づいた。途端に飛んでくるクッションやら小物の数々。



「モズ、落ち着けって」


「ニエ!あたしのプリン食べたでしょう!?知らないなんて言わせないんだから!」


キーっ!と今にも言い出しそうになりながら、モズは手当たり次第ものを投げ続けた。



ニエは困る。ぶっちゃけ、プリンを食べたのは確かに自分だ。
しかもちょっと小腹が空いたから、なんて理由で食べたなんてとても言えない。
モズはそのプリンがたいそう好きなのだ。



「モズ、悪かった。謝る。だから…」


そう謝れば、モズはふるふると震えて、
「やっぱりニエが食べたんじゃないのーっ!!」


途端にはじまる猛攻撃。不意打ちで、力いっぱい投げつけられたクッションが顔に直撃する。痛いというよりは、むしろ衝撃だ。


落ち着け、と言いながら、あまりの勢いにこっちが逃げ腰になる。大の男が情けない。
次第に攻撃が弱まってくる。どうやら投げるものがなくなってきたらしい。ちょっと振り向けば、部屋の大半のものがこっちに。



後から掃除するんだろうなぁ。俺が。



ちょっと遠い目をしている間に攻撃がなくなった。どうやら完全に投げるものがなくなったらしい。
ようやくおちついてモズを見る。モズは、真っ赤な顔をして、うううと唸って、それから。




「てりゃーー!!!」





自分を投げてきた。(※飛んできた、ともいう)


ある意味予想通りというか何と言うか、いつものことだと言わんばかりに、ニエはその体を受け止める。


「はーなーせっ!ニエのバカ!くいしんぼ!あたしのプリン返せー!」

「はいはい、わかったから」


言いながら同じくらいの目線になるまでその体を抱えあげる。膨れた顔のモズの目には、少し涙が滲んでいた。思わず苦笑すると、頬をベちんと叩かれた。


「何笑ってんのよ」

「ごめんごめん。プリンも食べて、悪かったな」


細い腕が首に回る。ちょっと落ちるんじゃないか、と言うほどきつく絞められて、それからちょっと泣きそうな声で、




「…生クリームつきのおっきいプリンかってくれたら許してあげてもいい」




とのお達しが降りた。返事の代わりにぽんぽんと背中を叩いて、買い物に行こうと財布を捜す。



買い物から帰って来たら、プリンを美味しく頂くモズの横で、大掃除さながらの片付けをしているニエの姿が拝めるだろう。


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いつだって子供と言う王者には誰も敵わないのです。



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