朝家を出たら玄関で蝉が死にかけていた。
腹を剥き出しにして、時折体を震わせてくるくると回る。
鳴きはしたが、その声もすぐに途切れる。
指で触れると掴みはしたが、持ち上げると地面に落ちてしまった。そんな力もないようだ。
透明な翅はくしゃくしゃで、破れかけていて、彼の地上での生き方が窺えた。
一体どれほど土の中にいたのか、
土の中でなにを考えていたのか、
外の明るさはどれほどのものだったのか、
無事に雌は見つけられたのか、
子孫を残すことはできたのか、
満足して生きることはできたのか、
たった一週間足らずの命で、それでも生まれてきてよかったのか。
問いかけても語る言葉を持たない彼は、時期に身を縮めて動くことをやめた。
その身を持ち上げて、土に埋めようと思い、
…思い直して、土の上に置いた。
何年も居た土の中に戻る必要はないのだ、と思った。
蟻達が彼の抜け殻を見つける。そのうち彼は分解されて餌になるのだ。
陽射しが暑かった。額を流れる汗を拭って、暫し耳を傾ける。
―――響く彼らの絶唱に。
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神よ、どうして私を見捨てられるのか!!!
2006/08/26