ス ク ラ ン ブ ル ・ エ ッ グ
世界で一番おいしいたべもの。
小さいあたしがいつもねだったもの。
黄色くてふわふわで、塩コショウしか入ってないのに、信じられないくらいおいしくて。
いつだってあたしのお弁当に入ってた。おかずがないときにいつも作ってた。食欲がなくてもこれは食べた。
バターなんて使わなくていい。サラダ油で充分。
信じられないくらい簡単。なのにあたしが作っても同じ味にはならない。
何で、って聞けば、いつも作り方を教えてくれた。…やってることは変わらないのに。
ふわふわにはならない。
『腕よ、腕』
ってあなたは笑う。それからそのおいしいものを作ってくれる。
あたしは、それで満足する。
正直思えば、まともに教わった料理って、これくらいじゃないかなぁ、なんて思いながら、今日も私はそれを真似する。
やっぱり同じ味にはならないんだけど。
あなたが作ったものと比べて、なんだか少し味気なく感じるそれを、あたしは食卓に並べる。
ぱたぱたと軽い足音。それからドアからひょこりと顔を出す。
「おはよう、ママ!」
「おはよう。ご飯できてるわよ」
朝から元気のいい声に笑って、そう促す。食卓にあるそれを見て、我が愛娘は嬉しそうに声を上げる。
「あ! たまごのボロボロだぁ!」
いただきまーす!なんて声を背中に聞きながら、あたしは少し苦笑する。
たまごのボロボロ、なんて。
ちょっと食欲失くしそう。よくよく考えてみれば。
「おいしい?」
そう聞けば、元気の良すぎる声が返ってくる。
「おいしい!あたし、ママの作るボロボロが一番好き!」
あ、ナルホド。
ちょっとだけ、結論に行き着いた気がして、あたしは少し泣きたくなった。
見た目だけはそっくりなあたしが作ったスクランブルエッグ。この子にとっての世界で一番おいしいものになってくれたらいい。
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やっぱり愛情は重要なスパイス。