G A M E
「賭け事は、好きかい?」
淡々とゲームに興じる私に、彼はそういった。
「嫌いじゃないわ」
相手は、いない。ディーラーもプレイヤーも私一人だ。
「何も考えずにすむから、嫌いじゃないわ」
彼は私の傍らにグラスを置いた。カクテルではなく洋酒だと分かり、それに微笑む。
「何も考えずにゲームはできない。戦略を考えなければならないだろう?」
彼は私の手からカードを奪う。何枚かトレードをして、投げ出した。
「でなきゃほら、Nothing<ブタ>だ」
私はそれに笑う。
「それで、いいのよ」
混ぜて、山をつくり、カードを引き、またトレード。
「いつか起こる偶然を、この眼で見てみたいのよ」
手持ちの中にはスペードの2、3。残りのカードを捨て、引く。
「…一体どれぐらいの確立だろうね?」
「さあ?」
琥珀色の液体を喉に流し込んだ。焼け付くような、心地よい熱さが気持ちよかった。
「けれど、その確立の中で、私たちは生きてるのよ」
カードを、今度は一枚捨てる。そして、引いた。
「当りが来るまで、待つのもゲームよ。――何も考えずに、ね」
グラスに今引いたカードを押し込んだ。スペードのエースが泡をはじく。
「ロイヤルストレートフラッシュよ」
彼が私の置いたカードを見た。目を少し見開いたのを見て、私は立ち上がる。
「勝負は偶然よ。私たちはね、いつだって考えているようで、何も考えてないのよ」
彼は私に向かって、小さくグラスを掲げて、笑った。
--------------------------------------------------------------------------------------------
偶然をもてあそぶ。それが人間。