Hello


こつこつ、と音がした。


寝ていたあたしはその音に身を起こす。



何の音?



外から誰かが、石を投げてる?




そんなことを考えながら、誰もいないと判断する。そんな人、私にはまだいないし。




気のせいかな。





こつ こつ。





…じゃなかった。



ドアかな?でもお母さんなら外からなんか言うだろうしお父さんだってそうだ。
だから…いるわけない。




じゃあ、何の音?




じっと耳をすましてみる。どこから聞こえてくるんだろう?






こつ こつ。



こつ こつ。



こつ こつ。



こつ こつ。




規則的に聞こえるその音を聞いていて、あたしは気付いた。



ノックの音じゃない。







卵の殻を、雛が突付く音だ。







   もうすぐ生まれてくるの?





誰から?






あれ?





ここ、部屋じゃなかった?あたしの部屋って、そもそも…。




ドアの隙間から光が漏れる。ドア?あれ?違う?




ゆっくりと手を伸ばした。ドアの向こうから心地よい歌が聞こえるの。




こつ こつ。




こつ こつ。



突付く音はまだ聞こえる。卵の殻を、つつく音。



―――?



殻の音じゃない、これ、









心臓の音だ。








そうだ、あたしの―――。






ひかりがどんどん溢れてくる。押し返されそうになりながら、手を一生懸命伸ばした。



ノブに手が触れて、ひねる。はじけるような、ひかり。



あたしはそのひかりに引っ張られた。




めがまぶしくてなんにもみえない。












あたしののどにひびくおと。




あたしのからだに、みちるくうき。




あたしのむねをうごかすこどう。






心地いいうたと、祝福の―――。












「おめでとうございます!女のお子さんですよ!」




――ああ、あたし、今  産まれた。










新生児用のベッドに眠る、子どもを見つめる夫婦が一組。


「見て、眠ってるわ」


「本当だ。…なんか、鼻とか口とか、お前そっくりだな」


「でしょう?」


ふふふ、と、本当に幸せそうに笑う。


父親となった男は、まだふにゃふにゃした娘の頬をつつきながら、嬉しそうに語りかける。



「おおい、パパだぞー」



こんにちわ、なんて語りかける父親に、「起きちゃうでしょ」と母親はたしなめる。
悪い悪い、と謝ってから、緩んだ口で言う。



「名前、考えなくちゃな」



それに母親も、嬉しそうに言う。



「そうね」




静かな、優しい笑みを浮かべながら、産まれてきた娘を見つめる。




君と歩いて行く日々がどんなときも幸せに満ちているように。



そう願って、その柔らかい頬を、もう一度撫でた。


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ママ、パパ、あのね、あたし生まれてきたときのこと、覚えてるのよ!


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