ラジオからのジャズナンバー。
Fly ME to the MOON!!
ちょっと雰囲気に合わないなぁと考える。
だって今は真昼間の午後二時過ぎ、太陽がさんさんと照り輝いて紫外線の気になる時間帯だ。
なんでやねーん、と思いつつ、好きな曲なのでボリュームを上げた。
アパートの一室に広がるスタンダードジャズ。
しっとりとした曲調に、女性の声がかぶる。外のやかましい陽射しが嘘のように静かだった。
時間は午後二時十五分。…遅い。
鼻歌交じりに聞きながら携帯を手にしてごろりと横になる。
最後の連絡から三十分はたった。如何に気が長い私でもこれは腹が立つ。
この曲が終わったら電話してやろう、まだのんびりしてるようなら本気で怒ってやろう。
「私を月へ連れてってー…」
ぼんやりとしか覚えていない和訳を口にする。静かな割に熱烈な歌詞だった気がする。
まだかまだかと思っているうちに曲は二番を迎え、このままだと終わりを迎えそうだった。
「あーもーおーそーいーよー」
いらいらしながらころがる。
空はこんなに青いのに。
風はこんなの温かいのに。
太陽はとっても明るいのに。
どうして部屋でお月様のナンバーを呟いてんだか、私は。
あぁ、曲がもう終わる。
…。と思ったら、ラジオからは突然アップテンポのベース音が響いてきた。おぉっと思うと、しっとりしていたバンドが急にやかましくなった。
どうやらこういう仕様らしい。一気に明るくなった音に乗せて、女の人がさらに歌う。
In other words please be true!
In
other words I love you!
ラストのフレーズを歌いきって、曲はそのまま終わる。
おお、いいものを聞いたと思っていると、携帯へ着信。
部屋を出ると、苦笑したヤツが立っていた。
「…怒ってる?」
はぁ、と溜息をついて別にいいよと言いながら部屋の鍵を閉めた。
ほっとしたような表情に呆れて、行こうと促す。
とりとめの無い話をして、ふと聞いてみた。
「…なんで遅くなったの?」
「いや、ラジオですごくいい曲が流れててさ」
それ聞いてたら遅くなった、と悪びれず言う彼。
同じ曲かな?と思うと嬉しくもなったけど―――。
とりあえず一発殴っておいた。
「ごめんてば!何でもするから!」
しょうがないなぁ、と溜息をついて。
「じゃあ、お詫びはね……」
空には真昼の月が浮いていた。
さて、出掛けましょうかね。
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私を月へ連れて行って!
06/05/29