空は、眼を射るほどに蒼かった。
咽 喉 鳴
何がしたいんだ、と君は言った。
驚くほど寒いビル風が吹く屋上で、君はフェンスを背にした僕に、そう言った。
僕は笑ってこう答えた。
何かしたいんだ。
君は眉間の皺を深くした。そうして君は足を踏ん張って、コートを翻しながら立っている。
今にも飛び掛ってきそうな君を見て、僕はゆっくり微笑んだ。
ざり、と踏み締めたコンクリートが鳴る。
何をするんだ。
君はそう聞いた。喘ぐみたいにそう言った。
君のその、必死な眼が、なんだか無性に愛しくて、…空しくて。
僕は声を上げて笑った。次いで咽喉がくぅ、となる。
笑いながら、近づいてくる君から 逃げた。
派手な音を立ててフェンスを乗り越えた。君はその隙に網のすぐ前まで来てた。
残念。あと少しだったね?
僕は網越しに君と対峙する。
君はフェンスに掴みかかると、戻って来い、と低い声で呟いた。
君の咽喉が、ひゅう、と鳴る。
怒りと、それから、得体の知れない願望と、到底計りきれない憎しみに満ちた、その瞳。
僕はその目をじっと見つめて、それから薄く微笑んで、軽い足取りでフェンスから離れた。
追うように網から伸ばされた君の手、に、そっと口付けて、もう一度笑う。
「したいことなんてないのさ、何にも、ね」
縁に立った足が、ゆっくりと離れる。
君から視線を逸らさない。君は僕から逸らせない。
聞こえるかな。
「強いて言えば、君のその目が見たかったんだ」
君が視界から外れて、雲一つない青空が。
真っ青な空にフェイド・インする。
何がしたいんだ。君が聞いた。
僕は答えなかった。
愛したいなんて言葉じゃ足りなかったんだ。
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耳元を切る風の音。まるで咽喉笛の音のよう。