散 る 訳 を そ の 訳 を
あなたは、あの晩、私を、この丘へと呼んだ。
風の強い、月のきれいな夜だった。
今みたいな青空なんかじゃなく。
月が明る過ぎて、星さえ潰してしまうような。
言葉もない私を、あなたは見つめた。そして言った。
…ごめん。もう、いかなくちゃ。
寂しげな顔で笑って。
でも、きっと、そばにいるから。
君が笑うときは僕もきっと嬉しくなる。
君が泣くときは僕もきっと悲しくなる。
ずっと、そばにいるから。
たとえ君に感じられなくても。
絶対に、傍に…。
そういったのに。
柔らかな月の晩。
けど、星は見えなくて。
真っ暗な雲はもうすぐそこまで来てる。
あなたを連れ去るかのように。
いかないで、と私はいえなかった。
ただ、あなたが今にも消えそうで、だからきつくあなたの服の袖を掴んでいた。
あなたは、私の涙をぬぐった。
そして、その涙を、自分の頬に。
月が雲に翳る瞬間。
瞬きをしたあなた。暗闇に飲み込まれるその一瞬前。
私の涙、だったのだろうか。
頬を伝っていたのは。
あの時、あなたは、泣いていた?
暗闇の中で交わした最後の
そうしてあなたは、帰ってこない。
どこかの戦場で散ったのだろうか。
どこかで新しい恋でも見つけてるのだろうか。
どこかで
どこかで私のことを思ってくれてるだろうか。
私の髪を風が巻き上げる。それが千切れそうに痛く感じた。あの時と同じように。
最後まであなたは理由を教えてくれなかった。行かなければならない、離れなければならない、私を置いて行かねばならないその訳を。
あの時、あなたが泣いていたその訳を。
最後の口付けは、とてもとても、甘かった。
そう、結局それで塞がれた。
塞いだの。
散る訳を、その訳を。
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聞きたくなかったんじゃない。言わせたくなかったの。