男は狼なのよ?気をつけなさい。
重たい枷を 引き摺る ように
気をつけなかった、私がいけない?
だって慣れた人だったから。
二人きり、なんてよくあることだったから。
しょっちゅうお互いの家を行ったり来たりしてたし。
だから今日だって、向こうの家にいるのは不自然じゃない。
気心が知れている『友達』だと思ってたし、
軽口で、スレスレのことを言うのは、もうゲームみたいなもので。
だから、さっきの軽口だって、そんな、全然意味なんかなかった。
「男は狼なんだって。気をつけろって。あんたにそんな甲斐性あるわけないよねー」
彼は答えてくれなかった。私はまだ気づけなかった。
「…ねえ、きいてる?どうしたの?」
肩に触れた。互いの体温が交わる。
腕を掴まれた。互いの感情が交差する。
そのまま押さえ込まれた。
「なっ…に、ふざけてんの」
「おまえが今自分で言った」
男は 狼 なのよ?気をつけなさい。
はがされてく感触。あれ、服ってこんなに皮膚みたいだっけ。
だってまるで自分が裸どころか、何もかも曝されそう。
撫でまわる手のひら。這い回る指先。かすかに振れてる性感帯。
ねえ、どうしたら。
憎いのか好きなのかもう分からない。こいつってあたしのなんだっけ?
大事な、友達 だった けど、あたしあんまり抵抗しなかった。
何でだっけ。どうして?
どうしてあたしは、あんな話なんか振ったりしたの?
こうして欲しかったの?
捕まえて欲しかった?捕まえておきたかった?もう何にも分からない。
ただあたしを掴んだまま離れないこいつの手と。
こいつの肩を掴んだまま離せないあたしの手と。
めぐりめぐる循環。体温の交換。
交わされた情動は一体誰のものになるんだろう。
やっぱりわけが分からない。でも分かっているのはもう戻れないこと。
互いの腕は、見えない鎖で繋がれた。
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こんな重たい赤い糸なんて。